深浦サーモンと田酒  文&写真:吉村喜彦

日本人の好きな魚といえば、サーモン。
老若男女を問わず人気があり、回転寿司ネタのランキングでは堂々の第1位である。
以前、ぼくはサーモンとは鮭のことだとばかり思っていたのだが、じつはそうではない。
回転寿司やスーパーなどに並ぶ生食できるサーモンとは、養殖したニジマスのことだった。

天然の鮭は寄生虫がいる可能性が高く、生食はされない。寿司に使われるのは寄生虫のいない、生食OKの養殖サーモン。
寿司ブームもあって、サーモン消費量は世界的に増え、日本でも各地で養殖されているが、今回訪ねたのは青森・深浦町のサーモンである。

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深浦町は青森空港から車で2時間半。
青森県の西端、秋田との県境にある。
ユネスコ世界遺産に登録された原生ブナ林の生い茂る白神山地のふもとに位置し、
この山なみの清冽な水でサーモン養殖をおこなっている。

漁協と地元企業、深浦町、弘前大学など地域が一体となってサーモン養殖に取り組み、大いなる町おこしの真っ最中だ。

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深浦サーモンは、十二湖(じゅうにこ)で卵を孵化(ふか)、陸上の中間養殖場で稚魚を育て、それを海にもっていって大きくする。
卵から水揚げまで一貫して養殖をしているのは日本ではここだけだそうだ。
養殖に使う水はすべて飲める水。
白神山地のブナ原生林から流れ出る川の水を、源泉掛け流しのように使っている。

深浦サーモンは直径25mのいけすで海上養殖されている

養殖に使う水はすべて飲める水。白神山地のブナ原生林から流れ出る川の水を、源泉掛け流しのように使っている。
孵化させるのに5カ月。
陸上養殖1年半。
海上養殖が半年。
つまり卵から水揚げまで約2年半。
500gの魚を海に放すと、たった半年で3㎏。
なんと6倍の大きさになるという。

いけすから揚げたばかりのサーモン。うろこがきらきら光っている
加工センターでさばかれたサーモン。マイナス55度の超低温の冷蔵庫に保存される

サーモン養殖は冷涼な気候ときれいな水がマスト・アイテム。まるでウイスキー造りのようだ。

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美しい身肉の載ったサーモン丼を食べる。

まず、醤油をつけず、そのままひとくち。
……とても淡泊。そしてスルッと滑らか。なんだか海の味がする……いや、水の味だ。これは白神山地と深浦の水の味なのだ。
脂は乗っているが、とてもさっぱり。
みずみずしい味といえばいいのか。
食べると、泡雪のようにさーっとサーモンが消えていく。食べるよりも、飲むという感じ。
そこに合わせたのは青森の誇る酒「田酒(でんしゅ)」。

青森県産酒造好適米「華吹雪」をつかった逸品。
コクのある辛口で、飲みあきないスッキリした味わい。
酸味と甘みのバランスもよく、キレもいい。
深浦サーモンの上品な味わいをよりバージョンアップさせてくれるマリアージュ。

青森の初夏の淡い青空を思いおこさせる爽快さだった。

文&写真:吉村喜彦

  • 吉村 喜彦(よしむら のぶひこ)

    1954年大阪生まれ。京都大学教育学部卒業。サントリー宣伝部勤務を経て作家に。 著書に、小説『バー堂島』『バー・リバーサイド』『二子玉川物語』『酒の神さま』(ハルキ文庫) 『ビア・ボーイ』『こぼん』(新潮社、PHP文芸文庫)『ウイスキー・ボーイ』(PHP文芸文庫) ノンフィクションでは、『漁師になろうよ』『リキュール&スピリッツ通の本』(ともに小学館) 『マスター。ウイスキーください〜日本列島バーの旅』(コモンズ)『オキナワ海人日和』(三省堂) 『食べる、飲む、聞く 〜沖縄・美味の島』(光文社新書)『ヤポネシアちゃんぷるー』(アスペクト)など多数。 NHK-FMの人気番組「音楽遊覧飛行〜食と音楽でめぐる地球の旅」の構成・選曲・DJを長年つとめた。 現在、月刊「地域人」で全国の漁師を取材する「港町ブルース」を連載中。

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