ニッポンさかな酒 ポルトガルのみどりのワイン 文&写真:吉村喜彦 2021.1.13 吉村 喜彦(よしむら のぶひこ) 印刷する ポルトガルは大航海時代の先駆けとなった国。日本とも関わりは深い。 鉄砲は1543年に種子島に漂着したポルトガル人から伝えられたし、織田信長の時代には南蛮貿易で交流を深めた。 ポルトガル語は日本に最も早く伝わった西ヨーロッパの言葉だ。日本語に取り入れられたポルトガル語も多い。合羽はcapa、歌留多はcarta、天ぷらはtempero。信長の好きだった金平糖はconfeitoが日本語化したものだ。 * * * 初めて旅した外国はポルトガルとスペインだが、最初から印象はまったく違った。 スペインは乾いていたが、ポルトガルは濡れていた。みどりが多く、うるおいの多いしっとりした土地だった。人びとの感性もちょっとセンチメンタルで日本人とどこか似ていた。 訪ねたのはポルトという街の近くのワイナリーだったが、そこで知ったのが、「ヴィーニョ・ヴェルデVinho Verde」。ヴィーニョは「ワイン」。ヴェルデは「みどり」。 日本語に訳すと「みどりのワイン」である。 微発泡性の白ワインで、リーズナブルな値段。ちょうど真夏に行ったので、爽やかな味わいが大好きになった。さらっとして飲みやすい辛口。しかも気取らず飲める。 ぼくはこの旅でポルトガルの人情とワインが大好きになった。 * * * ポルトガルの音楽「ファド」は、船で出ていった男を待つ女のせつない気持ちを歌っているが、その湿り気やコブシのきかせ方は日本の演歌に似ている。こんなところにもポルトガルと日本の近似性がある。 数年前、NHK・FM「音楽遊覧飛行」の選曲・構成とナビゲーターをしているときに、あらためて、ファドを聴きながら、ヴィーニョ・ヴェルデを飲みたくなって、ポルトガルを再訪した。 そのとき、以前から行きたかったナザレという漁師町にお邪魔した。 大西洋に面した長い砂浜が有名で、ポルトガル屈指のリゾート地だが、とても素朴でなつかしい感じのするところだった。 なんといっても食べたかったのは、イワシの塩焼き。海辺のレストランに入って、さっそく頼んだ。待つこと15分。大きなイワシが二匹、ごろんと横になったのが、何の彩りも洒落っ気もなく登場したのには驚いた。盛りつけにまるで工夫がない。 しかし、食べてみると、焼き具合といい、塩加減といい絶妙だった。 このあたりの魚料理にあらわれる感性も日本とよく似ている。ポルトガル料理は概してしょっぱいものが多かったが、こと焼き魚に関しては素晴らしかった。 このイワシの塩焼きに、ヴィーニョ・ヴェルデが抜群に合う。日本酒で合わすよりも、ぼくははるかに美味しいと思った。魚の脂が微発泡の液体でさらっとぬぐわれ、後味もさっぱり、ほのかな葡萄の香りが爽快だ。 店のひとが「ポルトガルの国民料理だから、ぜひ食べてみて」と教えてくれたのが、海鮮リゾット「アローシュ・デ・マリシュコ」。 食べてみると、まさに、魚介の雑炊。アサリやエビの旨味をたっぷり吸ったご飯に白ワインを加えて風味よく炊き上げられている。 ヴィーニョ・ヴェルデとのマリアージュも最高だった。 ポルトガル人はお米をよく食べるそうだが、その半分は雑炊系だという。 ぶっかけ飯が好きなぼくには、このあたりも気が合うのである。 ポルトガルについては音楽や四弦ギターなどまだまだ語りたいことはいっぱいありますが、また、それは別の機会にということで。 オブリガード! (※オブリガードとはポルトガル語で「ありがとう」の意味。これもなんだかよく似てるでしょ?) 文&写真:吉村喜彦 酒世界吉村 喜彦(よしむら のぶひこ)1954年大阪生まれ。京都大学教育学部卒業。サントリー宣伝部勤務を経て作家に。 著書に、小説『バー堂島』『バー・リバーサイド』『二子玉川物語』『酒の神さま』(ハルキ文庫) 『ビア・ボーイ』『こぼん』(新潮社、PHP文芸文庫)『ウイスキー・ボーイ』(PHP文芸文庫) ノンフィクションでは、『漁師になろうよ』『リキュール&スピリッツ通の本』(ともに小学館) 『マスター。ウイスキーください〜日本列島バーの旅』(コモンズ)『オキナワ海人日和』(三省堂) 『食べる、飲む、聞く 〜沖縄・美味の島』(光文社新書)『ヤポネシアちゃんぷるー』(アスペクト)など多数。 NHK-FMの人気番組「音楽遊覧飛行〜食と音楽でめぐる地球の旅」の構成・選曲・DJを長年つとめた。 現在、月刊「地域人」で全国の漁師を取材する「港町ブルース」を連載中。このライターの記事をもっと読む
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